-弱者の戦略-
海千山千の相場において、ひとつ認識しておくべきことがあるとすれば、「自身は弱者側」であり、「決して自身を大きく見せない」ことではないでしょうか。
弱者が取り得る戦略を考える上で、まず認識すべきは「自身が何者かを知る」ことであると考えます。
何故か。
一般論として、市場動向を予測する際、機関投資家やヘッジファンド等の戦略や方向性に注目が集まる傾向にありますが、それらの大半は他が簡単には真似のできない専門的な技術領域であり、追っても追いきれないケースが多々ある中、少なくとも「自身」のことは心掛け次第で”知る”ことができるからです。
「”他者を知る”ためには相応の対価と労力が必要。」
いつの間にか刷り込まれたような既成概念ですが、外部情報の収集にありったけのお金と時間を費やし、自身を知る事に関しては無関心の方も多いように見受けられます。
ただ、実際のところ、前者は時間の経過と共に効力を失い、後者は実践知としてストックされ続ける傾向にあります。
「弱者の戦略」を考える上で、まずは自身を知ることから考えてみましょう。
自分を知るためのポイント
自分の”こと”を知る
機関投資家、海千山千のスペキュレーター、ヘッジファンド、手持ち30万円の個人トレーダー、プロップのディーラー、商社のトレーダー。不特定多数が存在するマーケットにおいて、ライバルたちの特性やポジション動向を知りパワーバランスを見極めることは、市場で生き抜くために重要なカギになると考えられています。
事実、投機筋のポジションが(結果論として)相場の転換期のトリガーになる事もあり、戦略の組み立と備え(機会とリスク管理)の観点において、ライバルたちの特性、傾向と情報を知る事は重要なポイントと言えるでしょう。
”ライバル”には複数の意味と人間関係が含まれている
ただ、冒頭で言及したように、”自分のこと”、つまり全てのものごとを適切に測定するための基準が理解できていなければ、苦労して手にいれた外部の情報も無駄になってしまう可能性があるかもしれません。
”自分のこと”とは、「自身と自身の周辺環境を含めたキャパシティ、機能、能力」などが考えられ、具体的には、資金の性質や自身の性格の理解、その他取引環境など幾つかの重要なポイントが含まれています。
そして、”それら”は市場を介して対峙する他市場参加者以外のケアすべき「相手」として、弱者の戦略を考える上で重要なカギになります。
以下、幾つかの要素を確認してみましょう。(今回は特に初期の段階で重要と思われるポイントをピックアップしています。)
市場参加者以外にケアすべき相手/環境とは
”敵”、”ライバル”と言うとややニュアンスが微妙ですが、自分以外の市場参加者、つまり、自身と自身の置かれている環境や関係がケアすべき「相手」になります。
自身の性格
育った環境が異なれば性格やモノの見方も変わると考えます。
皆が「”まずは理論から始まり、次にリスク管理、そこから段階的に実践知を・・・”」といった流れで物事を習得できれば楽なのですが、良くも悪くも個性はバラバラです。
上記の流れで思慮深く物事を吸収する人もいれば、最初に「えいや」で飛び込んで体と感覚で覚える人もいます。
正解はありません。
だからこそ、自身の性格を客観的に見極め、”適切”に物事を管理する能力が必要になると考えます。
資金の性質
自身の資金の性質を知らなければならない。
当然と言えば当然ですが、不思議な事に、多くの投資家やトレーダーが資金と向き合う事を疎かにし、結果、大きな痛手を被るケースが多々見受けられます。
客観的には、特に個人の方が困難に直面するケースが多いと考えられます。
背景として、組織のトレーダーや運用者は資金を管理されている側面もあり、様々なルールで縛られていますが、個人の方は”自身”が自身を管理する必要があります。
つまり、自身が自身を監視する相手方にならなくてはいけない、という考えです。
一般的に、個人のメリットのひとつとして「決算が無い」「ルールに縛りが無い」といった話も聞かれますが、自由の裏側には相応のリスクが控えています。
自身の資金の紐が無意識に緩まることの無いよう、もう一人の自分が厳しい「相手方」として全てを管理することが必要になるでしょう。
時間軸
自身が使える時間軸はどこなのか。
弱者の戦略を考える上で時間軸は非常に重要な位置にあると考えられます。
その理由のひとつとして、短時間で勝負を終える事が(弱者の戦略の)前提となっているケースが少なくないからです。
背景として、資金量等、キャパシティの面で劣る弱者は、長期戦に持ち込むほどの体力は無く、極力、短期で勝ちを収めていく必要性があるからです。
ただ、現実的には、勤務先の仕事の終わり時間の都合等で「20時以降から最大3時間」しか取引が”許されていない”といったケースもあるでしょう。そして、残念ながら「20時以降から最大3時間」は自身のコントロールした時間ではありません。
少し厳しめに考えると、これらは外的要因で決められた時間軸であり、自身の意思が反映されていないため土俵には乗らない、という判断(排除)になります。
マーケットは、自身の能力に合致した環境を見出すことができれば、優位性のある立ち位置を手に入れる可能性も高くなりますが、逆も真なりで、自身の土俵の外での勝負は、入り口の段階で物事がアゲインストになっている可能性が高いと考えます。また、上述の”長期戦突入”も土俵外のパターンと言えるでしょう。
上記のような時間的条件を深く認識し、自身の投資システムを組み立てることはとても重要であると考えます。
ブローカー
4つ目のポイントとしてバランスの取れたブローカーの選択が挙げられます。
ブローカー選び。
意外なようですが、弱者の戦略のカギになる要素として考えられています。
ここでは、諸経費、取引システム、取扱商品、対応の柔軟性等を一括りにして”ブローカー”と表現しています(欲を言えば、技術的な面とは別に信頼できる担当者がいるのが理想ですが、現実的には両者が成立する事は稀です)。
一般的に、多くの方が投資をする際の動機は「将来性が期待されている、盛り上がっている○○に投資したい」といった気持ちが先行する傾向にあるのではないでしょうか。
気持ちはとても理解できます。
ただ、目先の感情や条件に気を奪われてしまうと、バランスの取れたブローカー選びが困難になります。
バランスとは、上記~諸経費等々~が挙げられ、いずれかが良い条件であったとしても、他が自身の基準を満たしていない事は普通にあり得ます。
上記の例で考えると、特定の金融商品は取引可能であるものの、他の諸条件が基準に合致しない、水準を満たしていないといったパターンです。
誰が見ても「完璧な条件を整えたブローカー」を見つけるのは困難(無理)です。ただ、自身の基準を満たしてくれるブローカーであれば、努力次第で見つけることは然程難しくはなく、これらを実現する事が、自身の土俵を作り上げる上で重要なポイントになると考えます。
以上、”初歩の初歩”の入口として幾つかのポイントにフォーカスしましたが、他の要素に関しては、また別の機会にご紹介させて下さい。
次に、自身を知ることの強み、メリットをまとめています。
自身を知ることの強み
土俵が明確になる
最大のメリットは、オリジナルで持続可能な「土俵」を手にいれることにあると言えるでしょう。
誰かが(著名な人が)「これから上がるだろう」と発言したから飛び乗る、勝率が高く高価なインジケーターを盲信する、ポジショントーク(自身のポジションに有利な方向へ相場が動くよう市場心理を揺さぶる発言)に振り回される。
自身の土俵が明確になる事で上記の悩みから開放されることが期待できます。
自分を機械的にコントロールできる
上述の「市場参加者以外にケアすべき相手/環境とは」の各要素の大半は数字で決められる性質のものであり、”そこ”に感情は存在しません。
相場の世界では「メンタル・コントロール」という言葉が良く聞かれます。ただ、どのような素晴らしく納得できるような助言があったとしても、頭で理解しただけでは実際の習慣化は困難です。そのため、初期の段階でノイズが生まれない環境をつくる事が重要であると考えられます。
つまり、自身の土俵とは、最もハンドルが難しいメンタル・コントロール、あらゆる”ノイズ”を排除した空間と言い換える事ができるでしょう。
留意点
留意点について考えてみます。
慣れ
自身の土俵にアジャストするための”慣れ”が必要と考えます。前提として、過去に物事を感情的にハンドルしてきたのであれば、今後は、数字で物事をコントロールできるようになるための時間が必要です。
”忍耐”という表現では心が折れてしまうため、”慣れ”程度に考えることが理想ではないでしょうか。(ある時、客観的に物事を見ている自分に気付く時が訪れます。)
計画性と信念
そもそも弱者の戦略を体得しようとしている目的は何なのか。
目的を明確にすることで目の前の仕事がゼロサムの賭けから真剣勝負に変わります。
一般論として、「所詮、短期勝負なんて投機だろ」という意見が聞かれます。※多くのケースにおいて短期勝負=トレーディングと認識される傾向にあります。
また、あまり人から称賛されないスタンスかも知れません。
悪くないでしょう。
人には人の考えがあります。
それぞれの意見を尊重すべきです。
ただ、”それでも”自身が短期勝負(弱者の戦略)に拘る理由があるのならば、周りの批評や体裁など気にする必要はないでしょう。
他の人には見えない自分なりの信念や目標や夢があり、そこに辿り着くために”今”は「弱者の戦略」で戦う必要もあるでしょう。
自身に目標があり、オリジナルであろうとするあなたの生き方を貫くべきです。
そのためにも、目的を明確しておく事が肝要であると考えます。
乗り越えるべき壁
「自身のやり方に専念する」、言うは易く行うは難しであることは承知していますが、一旦習慣化されると自身の土俵が形成されます。
マーケットでは、「”自分の知らないものに手を出さない”」ことが持続的な投資活動を送るための重要かつ普遍的なスタンスと知られています。
”知らないもの”とは、概して、特定の市場や金融商品を指すことも多いですが、大前提として「自分自身」を知らなければ上記の市場や商品を知ることも困難ではないでしょうか。
本記事の内容は、今日明日で形成されるものでもありません。
ただ、”作ったもの”が自分自身(オリジナル)であれば、将来迷ったときに立ち返る場所が明確であり、ノイズに惑わされることは無いと考えます。
この記事が皆様のお役に立てたのなら幸いです。
最後までお読みいただき有難うございました。
未来論について
長々と本記事をお読みいただきありがとうございました。
本記事の実践ベースでの展開は、改めて動画講義や別の記事、また、実践知の図書館で共有していきますので楽しみにしておいてください。また、記事内でハイライトした箇所も同様、実践知として記事や動画講義で展開していきます。
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バーグインベスト株式会社 代表取締役
AOFファンド Chief Executive officer
※AOF:生きる知恵、ファンド:宝庫、AOFファンド:生きる知恵の宝庫
未来論「実践知の図書館」の創設者として、世界中から集められた実践知を共有する場所を運営。一個人としてアナリストや物書きとしての一面もあり、現在も、相場師・運用者として四半世紀近くフューチャーズの住人として現場に生きる筋金入り。
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